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東京地方裁判所 昭和39年(ワ)1542号 判決 1967年9月09日

第一五四二号事件原告兼第四六三四号事件被告 野々貞市

右訴訟代理人弁護士 渡辺一郎

第一五四二号事件被告兼第四六三四号事件原告 大島利

第一五四二号事件被告兼第四六三四号事件原告 沖悦蔵

第四六三四号事件原告 小林サヰ

第一五四二号事件被告 吉井隆博

右四名訴訟代理人弁護士 鈴木義広

第一五四二号事件被告 片岡春子

右訴訟代理人弁護士 古沢昭二

第四六三四号事件被告 野原タツ

第四六三四号事件被告 理崎一定

右両名訴訟代理人弁護士 三谷穣

第四六三四号事件被告 池田宇善

主文

一、被告大島は原告野々に対し別紙第二物件目録(イ)記載の建物を収去して同第一物件目録(イ)記載の土地を明渡し、かつ、昭和三八年五月七日から昭和三九年三月三一日までは一月金一九、三九〇円、同年四月一日から昭和四〇年三月三一日までは一月金二二、三〇〇円、同年五月一日から昭和四一年三月三一日までは一月金二四、三三〇円、同年四月一日から右土地明渡ずみまでは一月金二五、二七八円の割合による金員を支払え。

二、被告沖は原告野々に対し別紙第二物件目録(ニ)記載の建物を収去して同第一物件目録(ニ)記載の土地を明渡し、かつ、昭和三八年五月七日から昭和三九年三月三一日までは一月金四、七〇三円、同年四月一日から昭和四〇年三月三一日までは一月金五、五二三円、同年四月一日から昭和四一年三月三一日までは一月金五、九〇五円、同年四月一日から右土地明渡ずみまでは一月金六、一七二円の割合による金員を支払え。

三、被告池田は原告大島に対し別紙第一物件目録(イ)記載の土地につき、原告小林に対し同目録(ロ)および(ハ)記載の土地につき、原告沖に対し同目録(ニ)記載の土地につき、それぞれ昭和二六年一二月二七日の売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

四、原告野々のその余の請求、原告大島、原告小林、原告沖の各その余の請求はいずれもこれを棄却する。

五、訴訟費用は被告池田に関して生じた分は同被告の負担とし、原告野々と被告片岡同吉井との間に生じた分は同原告の負担とし、その余の分は、昭和三九年(ワ)第一五四二号事件につき、被告大島、同沖、同第四六三四号につき同事件原告らの負担とする。

事実

第一、第一五四二号事件

一、原告の申立

(一)  被告大島は原告に対し別紙第二物件目録(イ)記載の建物(以下「(イ)の建物」、「(ロ)の建物」のように称する)を収去して同第一物件目録(イ)記載の土地(以下「(イ)の土地」、「(ロ)の土地」のように称する)を明渡し、昭和三八年五月七日から右土地明渡ずみまで一ケ月金九〇、二四〇円の割合による金員を支払え。

(二)  被告片岡は原告に対し(ロ)の建物を収去して(ロ)の土地を明渡し、昭和三八年五月七日から右土地明渡ずみまで一ケ月金三五、〇九三円の割合による金員を支払え。

(三)  被告吉井は原告に対し(ハ)の建物を収去して(ハ)の土地を明渡し、昭和三八年五月七日から右土地明渡ずみまで一ケ月金四〇、〇〇〇円の割合による金員を支払え。

(四)  被告沖は原告に対し(ニ)の建物を収去して(ニ)の土地を明渡し、昭和三八年五月七日から右土地明渡ずみまで一ケ月金二五、〇〇〇円の割合による金員を支払え。

(五)  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言。

二、被告らの申立

(一)  原告の請求はいずれもこれを棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

三、原告の主張

(一)  別紙第一物件目録記載の土地(以下本件土地という)を含むもと東京都新宿区神楽坂町二丁目一〇番地の一宅地二〇〇坪は被告池田の所有であったところ平原清人は昭和三二年一二月一二日メトロ映画株式会社(以下メトロ映画という)に対し金五〇〇万円を返済期昭和三三年一二月一二日の約で貸与し、右貸金債権を担保するため被告池田との間で、右二〇〇坪の土地に根抵当権の設定を受け、さらに右貸金債務が期限に履行されないときはその弁済に代えて右二〇〇坪の土地の所有権を平原に移転する旨の停止条件附代物弁済契約を締結し、同月一三日所有権移転請求権保全の仮登記をなした。

(二)  平原は昭和三三年一〇月三一日、右貸金債権ならびに前記根抵当権および停止条件附代物弁済契約にもとずく所有権移転請求権を安藤一郎に譲渡し、安藤は同年一一月八日これを河崎宏和に、河崎は同月二一日これを被告野原にそれぞれ譲渡し、その旨の各附記登記をなした。平原、安藤および河崎は昭和三四年四月二五日被告池田に対し書面でそれぞれ右譲渡の通知をなし、右書面はその頃到達した。

(三)  被告野原はメトロ映画が右貸金を期限に支払わなかったので、被告池田に対し昭和三四年二月一日到達した書面で右二〇〇坪の土地を代物弁済として取得する旨の意思表示をなし、もってその所有権を取得した。右二〇〇坪の土地は昭和三三年一二月一七日(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)の本件各土地および、他の一二八坪四合六勺に分筆されていたが、被告野原は当庁昭和三四年(ワ)第一九〇三号事件において被告池田に対し本件土地について前記仮登記にもとずく本登記手続を求めて勝訴判決を得、同判決にもとずき、昭和三八年二月二五日本件土地に本登記を了した

(四)  被告野原は被告理崎から金六五〇万円を借り受けていたところ、昭和三八年二月二五日本件土地をその弁済に代えて被告理崎に譲渡し、同日その旨所有権移転登記を了した。

(五)  原告は被告理崎に金七〇〇万円を貸与していたところ、同年三月五日原告と被告理崎との間で被告理崎は原告に対する右債務を同年四月三〇日に支払う、右期限に支払わないときはその支払いに代えて本件土地を原告に譲渡する旨の契約が成立し、同年三月六日その旨所有権移転請求権保全の仮登記を了した。しかるに被告理崎は右期限内に右債務を支払わなかったので、原告は本件土地の所有権を取得し、同年五月七日右仮登記にもとずく本登記を了した。

(六)  原告が右本登記を了する以前から被告大島は(イ)の土地上に(イ)の建物を、被告片岡は(ロ)の土地上に(ロ)の建物を、被告吉井は(ハ)の土地上に(ハ)の建物を、被告沖は(ニ)の土地上に(ニ)の建物をそれぞれ所有して該土地を占有している。

(七)  右被告らの土地占有により、原告は本件土地一坪につき一ケ年時価一坪四〇万円の一〇〇分の八に相当する収益を阻害されている。これを各被告の占有坪数に応じて計算すると、各被告が原告に与えている一ケ月の損害額は原告の申立欄記載の各金員となる。

(八)  よって原告は被告大島、同片岡、同吉井、同沖に対してそれぞれ前記占有する土地の明渡を求め、且つ、原告が、前記各土地につき所有権取得登記を了した日である昭和三八年五月七日から右土地明渡ずみまで原告の申立欄記載の損害金の支払を求める。

(九)  被告らの主張はすべて否認する。

四、被告大島、同片岡、同吉井、同沖の主張

(一)  原告主張の二〇〇坪の土地が被告池田の所有であったこと、右土地につき原告主張の各登記のあること、被告らが原告主張のように建物を所有して土地を占有していることは認める。

(二)  原告主張の平原、安藤、被告野原、被告理崎、原告と順次なされた本件土地についての合意は知らない。原告主張の本件土地の時価は知らない。

(三)  メトロ映画が平原から原告主張の約で金五〇〇万円を借り受けたこと、その際被告池田と平原との間で停止条件付代物弁済契約が成立したことは認めるがその代物弁済の目的となったのは本件土地を除く映画館の敷地一二八坪四合六勺であった。たまたま本件土地が分筆前で、二〇〇坪が一筆となっていたため右二〇〇坪全体について平原への仮登記がなされたものである。

(四)  仮りに本件土地が右代物弁済に含まれていたとしても、本件土地は被告大島、同沖、小林が昭和二六年一二月二七日それぞれ被告池田から買受け、爾来自己の建物を所有し、または他人に賃貸して使用して来たのであって、平原は被告らが本件土地を使用していることを充分知っていたこと、代物弁済契約締結当時、メトロ映画および被告池田は金策に窮しており、しかも被告池田は病気就床中で、実印を託して金策を依頼した安藤一郎は平原のおいにあたること、前記二〇〇坪の土地の時価は当時約教千万円であるのに、代物弁済された債権は金五〇〇万円にすぎないこと、代物弁済契約締結の事実は被告ら本件土地の利害関係者に何ら知らされなかったこと等を考えあわせると、被告池田と平原との間の右代物弁済契約は被告池田の無知、無思慮、困窮等に乗じ、平原の暴利獲得のためになされたものというべく公序良俗に反し無効である。

(五)  仮りにそうでないとしても、平原は被告大島、同沖が、それぞれ(イ)、(ニ)の土地を買受け、また被告片岡、同吉井が被告池田からの買受人である被告小林よりそれぞれ(ロ)、(ハ)の土地を賃借して本件土地を使用していることを知りながら敢えて前記代物弁済契約を締結したものである。

そして安藤、河崎は単に名目上の存在で、被告野原は事実上平原から右代物弁済契約上の権利を譲り受けたものというべきところ、右譲り受けに関与した被告野原の夫桂造は前記被告池田と平原との間の契約に関与した安藤一郎および沖山貞雄とかねてから知り合いであり、また原告と桂造および被告理崎は互いに眤懇の間柄で、被告野原、同理崎および原告は本件土地についての被告大島らの権利および使用の事情を知悉しながら順次本件土地についての原告主張の契約を締結したものでいずれもいわゆる背信的悪意者というべく、原告小林、被告沖、被告大島の登記の欠缺を主張することはできない。

(六)  右主張がいずれも認められないとしても、原告小林は昭和二六年一二月二七日(ロ)および(ハ)の土地を被告池田から買受け、原告小林から、被告吉井は昭和二七年九月一三日(ハ)の土地を賃借し、同月一五日原告小林から(ハ)の建物を買受け、同日その旨建物の所有権移転登記を了し被告片岡は昭和二八年五月七日(ロ)の土地を賃借するとともに同原告から、(ロ)の建物を買受け、同月二一日その旨建物の所有権移転登記を了した。平原の仮登記は被告吉井および同片岡の右建物所有権取得登記の後になされたものであるから右被告両名はその賃借権をもって原告に対抗できる。

第二、第四六三四号事件

一、原告大島、同沖、同小林の申立

(一)  原告大島に対し(イ)の土地につき、原告小林に対し(ロ)および(ハ)の土地につき、原告沖に対し(ニ)の土地につき、

(1) 被告野原は東京法務局新宿出張所昭和三八年二月二五日受付第三八四号による各所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

(2) 被告理崎は右同出張所昭和三八年二月二五日受付第三八五三号による各所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

(3) 被告野々は右同出張所昭和三八年三月六日受付第四八五一号による各所有権移転請求権保全の仮登記、同日受付第四八五〇号による各抵当権設定登記、および昭和三八年五月七日受付第一〇三九二号による各所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

(4) 被告池田はそれぞれ昭和二六年一二月二七日の売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

(二)  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決。

二、被告野原、同理崎、同野々の申立

(一)  原告らの請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決。

三、被告池田の申立(書面による)

被告大島、同小林、および同沖の請求を認諾する。

四、原告らの請求原因

(一)  昭和二六年一二月二七日、原告大島は(イ)の土地を、原告小林は(ロ)および(ハ)を合わせた土地を、原告沖は(ニ)の土地をいずれもその所有者である被告池田から買受けた。

(二)  しかるに右各土地についてはいずれも申立欄(1)、(2)(3)記載の各登記がなされている。

よって右被告ら三名に対し、右各登記の抹消を求め、被告池田に対しては、前記各売買契約にもとずき、原告大島に(イ)の土地につき、原告小林に(ロ)および(ハ)を合わせた土地につき、原告沖に(ニ)の土地につきそれぞれ所有権移転登記手続をなすことを求める。

五、被告池田の答弁(書面による)

請求原因第一項は認める。

六、被告野原、同理崎、原告野々の主張は、「請求原因第一項は否認する」と述べたほか第一五四二号事件における原告野々の主張と同一であり、原告らの主張は、同事件被告大島らの主張と同一である。

第三、証拠<省略>。

理由

一、原告大島、同小林、同沖の被告池田に対する請求について、被告池田は口頭弁論期日に出頭しないが、同被告が提出して陳述したものとみなされた答弁書によれば、原告大島、同小林、同沖の請求原因事実をすべて認め、その請求を認諾する旨の記載がある。右事実によれば、原告らの被告池田に対する本訴請求はいずれも理由がある。

二、本件土地を含む宅地二〇〇坪がもと被告池田の所有であったこと、同土地につき原告野々主張の各登記があること同土地が(イ)(ロ)(ハ)(ニ)および他の一筆に分筆されたこと、原告野々の本件土地についての本登記以前から被告大島、同片岡、同吉井、同沖がそれぞれ原告野々主張の建物を所有してその主張の土地を占有していることは当事者間に争いがない。

三、原告野々の本件土地所有権取得について

(一)  平原清人が昭和三二年一二月一二日メトロ映画に対し金五〇〇万円を弁済期昭和三三年一二月一二日の約束で貸与したことは当事者間に争いがない。

(二)  <証拠省略>を総合すれば、被告池田は自己の経営していたメトロ映画が平原から右金五〇〇万円を借り受けるに際し、平原との間に、本件土地を含むもと東京都新宿区神楽坂二丁目一〇番地宅地二〇〇坪について根抵当権を設定し、同時に右金員が期限内に弁済されないときは右宅地二〇〇坪の所有権を代物弁済として平原に移転する旨の契約を締結し、同月一三日その旨根抵当権設定登記および所有権移転請求権保全の仮登記を了したことが認められる。被告大島らは右代物弁済の対象となった土地は右二〇〇坪のうち本件土地を除く映画館の敷地部分であったと主張するが、これに沿う証人宮下の証言は措信できず他に前記認定を覆すに足る証拠はない。

(三)  被告大島らはまた右代物弁済の合意は池田の無知、無思慮、困窮等に乗じ、平原の暴利獲得のためになされたもので公序良俗に反し無効であると主張する。しかし<省略>を総合すれば、右二〇〇坪の土地については登記簿上右代物弁済契約締結当時すでに高峰森林株式会社の元本極度額金四〇〇万円の根抵当権設定登記および売買予約による所有権移転請求権保全の仮登記、群馬県の滞納処分による差押登記がなされていることが認められ、また後記認定のように本件土地は被告大島らが占有していたのであるから仮りに右二〇〇坪の土地が当時時価数千万円であったとしても平原が右二〇〇坪の土地を取得した場合これを完全に利用しまたは処分するためには相当の時間と費用を要するものと考えられるから右代物弁済の合意をもって平原のいわゆる暴利行為として公序良俗に反し無効なものということはできない。

(四)  <証拠省略>を総合すれば、平原は昭和三三年一〇月三〇日前記メトロ映画に対する金五〇〇万円の債権を根抵当権および代物弁済契約上の権利とともに安藤一郎に譲渡して同月三一日その旨の附記登記を了し、安藤は同年一一月七日これを河崎宏和に譲渡して同月八日その旨の附記登記を了し、河崎は同月二〇日これを被告野原に譲渡して同月二一日その旨の附記登記を了したこと、平原、安藤河原は昭和三四年四月二五日頃到達した書面でそれぞれ被告池田に対し前記各債権譲渡の通知をなしたこと、これより先被告野原はメトロ映画が右金五〇〇万円の弁済方法として平原に振出していた同額の手形を前記債権譲受の際取得しこれを昭和三三年一二月一五日メトロ映画に提出したがその支払を受けられなかったので昭和三四年二月一日被告池田に到達した書面で右二〇〇坪の土地を前記金五〇〇万円の債権の代物弁済として取得する旨の意思表示をなしたこと、被告野原が被告池田に対し昭和三四年(ワ)第一九〇三号をもって本登記の請求をなし勝訴判決により昭和三八年二月二五日本登記をなしたことが認められ、これに反する証拠はない。したがって被告野原は代物弁済により右二〇〇坪の土地の所有権を取得したのである。

(五)  <証拠省略>によれば、被告野原は被告理崎から数回にわたり合計金六五〇万円を借り受けていたところ、昭和三八年二月二五日被告理崎との間で右貸金返還債務に代えて本件土地の所有権を被告理崎に移転する旨の契約を締結したこと、また被告理崎は原告野々から二回にわたり合計金七〇〇万円を借り受けていたが、昭和三八年三月五日原告野々に対し右金員を同年四月三〇日までに返還することとし、右債務につき本件土地に根抵当権を設定し、右期限に支払わなかったときは代物弁済として本件土地の所有権を原告に移転する旨約したこと、被告理崎は右期限内に右債務を支払えなかったので、原告野々に対し本件各土地につき同年五月七日所有権移転の本登記手続をなしたことが認められ、これに反する証拠はない。しからば、原告野々は本件土地の所有権を取得したことになる。

四、被告大島らの本件土地買受けについて、

<証拠省略>を総合すれば、被告池田は昭和二六年一二月二七日被告大島に対し(イ)の土地を、原告小林に対し(ロ)および(ハ)をあわせた土地を、被告沖に対し(ニ)の土地を売渡したこと、被告大島は昭和二七年春頃(イ)の土地上に(イ)の建物を建築し、五軒の店舗として使用してきたこと、被告沖は同年夏頃(ニ)の土地上に(ニ)の建物を建築し、マージャンクラブとして使用してきたこと、原告小林は同年二月頃(ハ)の土地上に(ハ)の建物を、同年九月頃には(ロ)の土地上に(ロ)の建物をそれぞれ建築し、同年九月一三日被告吉井に(ハ)の建物を譲渡して(ハ)の土地を右建物所有の目的で賃貸しその頃建物につき所有権移転登記を了し、また昭和二八年五月二〇日被告片岡に対し(ロ)の建物を譲渡して(ロ)の土地を右建物所有の目的で賃貸し、同月二一日右建物につきその旨所有権移転登記を了したことが認められ、これに反する証拠はない。

五、被告大島らは、平原、安藤、河崎、被告野原、同理崎、および原告野々はいずれもいわゆる背信的悪意者であって被告大島らの本件土地所有権取得についての登記の欠缺を主張する正当な利益を有しないと主張する。しかし<省略>によれば、被告野原が河崎から前記貸金返還債権および代物弁済契約上の権利を譲り受けるに際し、被告野原の代理人として契約を締結した同被告の夫野原桂造は契約締結当時代物弁済の目的となった二〇〇坪の土地が映画館の敷地以外の土地を含むものと考えていたが、本件土地がこれに含まれることについてははっきり知らなかったこと、本件各土地を被告大島らが被告池田から買受けていたことを何ら関知していなかったことが認められる。右事実によれば右代物弁済契約上の権利を取得するにつき右野原桂造にいわゆる背信的悪意があったとはいえない。また、被告野原本人について背信的悪意を認めるに足りる証拠はない。したがって、被告らのこの部分の主張は理由がない。

六、被告片岡、同吉井の賃借権の主張について判断する。

被告小林が被告池田から(ロ)および(ハ)の土地を買受けてその上にそれぞれ(ロ)、(ハ)の建物を建築し、これをそれぞれ被告片岡同吉井に譲渡し、同時に(ロ)、(ハ)の土地をそれぞれ右建物所有の目的で賃貸したこと、被告片岡、同吉井はそれぞれ(ロ)(ハ)の建物につき、前記平原の二〇〇坪の土地について仮登記がなされる前に所有権取得登記を了したことは前段に認定したとおりである。そして、原告小林、被告大島、同沖の本件各土地の所有権は登記を有する原告野々に対抗できないことは前段までの説示により明らかである。しかし、建物保護に関する法律第一条によって第三者に対抗し得る賃借権は対抗力を備えた土地所有者の了解のもとに設定された賃借権をいうのであって(大審院昭和三年(オ)第一二八六号昭和四年三月一日判決参照)本件被告片岡、同吉井の各賃借権は被告池田から(ロ)(ハ)の土地を買受けた被告小林により設定されたものであり、その設定については当然被告池田が承諾していたと認められるからその後所有権を取得した原告野々に対抗し得るというべきである。

七、(イ)および(ニ)の土地の賃料相当の損害額は鑑定人平沼薫治の鑑定の結果によれば、一月につき昭和三八年五月七日から昭和三九年三月三一日までは(イ)の土地については金一九、三九〇円、(ニ)の土地については金四、七〇三円、同年四月一日から昭和四〇年三月三一日までは(イ)の土地については金二二、三〇〇円、(ニ)の土地については金五、五二三円、同年四月一日から昭和四一年三月三一日までは(イ)の土地については金二四、三三〇円、(ニ)の土地については金五、九〇五円、同年四月一日以降は(イ)の土地については金二五、二七八円、(ニ)の土地については金六、一七二円であると認められる。

八、以上の通りであるから原告野々に対し、被告大島は(イ)の建物を収去して(イ)の土地を明渡し、被告沖は(ニ)の建物を収去して(ニ)の土地を明渡し、一月につき昭和三八年五月七日から昭和三九年三月三一日までは被告大島は金一九、三九〇円、被告沖は金四、七〇三円、前年四月一日から昭和四〇年三月三一日までは被告大島は金二二、三〇〇円、被告沖は金五、五二三円、同年四月一日から昭和四一年三月三一日までは被告大島は金二四、三三〇円、被告沖は金五、九〇五円、同年四月一日以降被告大島は(イ)の土地、被告沖は(ニ)の土地の各明渡済まで被告大島は金二五、二七八円、被告沖は金六、一七二円の各割合による金員を支払う義務があり原告野々の本訴請求は以上の限度で理由があり、その余の請求は失当として棄却することとする。また、原告大島、同小林、同沖の被告野々、同理崎、同野原に対する各請求はこれまでの説示のとおり、原告野々、被告理崎、同野原の各登記が実体上の権利変動に則した有効なものであるからこれを棄却することとし、被告池田に対する請求は認容することとする。<以下省略>。

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